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2010年04月15日
ぬぐい展(注染について思うこと)
今日は実母とちょっとお出掛け…息子を保育園に預けて遊んでいる?いいえ、これは学びです。仕事に繋がる学びの時間。出掛けた先は紀尾井アートギャラリー・江戸伊勢型紙美術館。路地を入ったビルの2階という「知ってる人しか行かれない」ような場所に何を見にいったかというと、私の母校の一つでもある女子美工芸科の有志学生が進めてきた「注染手拭プロジェクト」と「B反手拭プロジェクト」の展覧会。「注染」とは明治時代から始まった浴衣や手拭いを染める独特の技術でざっとこんな感じで染めるもの(←(株)エフ・ディさんのページを参考させていただきました)。女子美工芸の染色は日本の大学としては唯一「注染」の技法を取り入れていて、これは相当珍しい。その理由はおそらく女子美工芸誕生まで遡り、民芸運動を起こした柳宗悦の甥にあたる染織作家・柳宗孝や型絵染の人間国宝の芹沢銈介が創設の中心的人物だったというところに深く関係しているははず。勢いここはかなり民藝色が強いところで(少なくとも私が在籍していた頃は)「生活の中に美がある」との教え、そして作品を完成させるというよりまずはじっくり技術を習得させるような雰囲気がありました。まだ青かった生意気な私なんぞはせっかちに何か成果として目に見えるものが作りたいとファイバーワーク(←今となっては懐かしい)のような現代美術っぽいものに格好良さを感じながら「自分のやってることはなんだか野暮ったいな」と罰が当たりそうなことを思いつつ日々注染台に向かっていたもんです。そう、染織を学んでいる工芸の学生は染と織に分かれ、染の学生は更にシルクスクリーンや型染めなどに細かく分かれて自分の布を染め続けるのですが、どういうわけか私が選択したのがこの注染だったのでした。今思えばかなり珍しい経験です。布と糊と染料とそれを扱うちょっと特殊な技術とコンプレッサーのどれひとつがブレても仕上がりが悪くなりますが、しかし「仲間にセンスで劣る分は仕事の量でカバーする」と誓いを立てて取り組んだおかげでイメージに近い布をかなりの確率で染めることが出来るようになり、最後には卒業制作賞まで頂くというご褒美も(おっと、こっそり自慢までしちゃいました)。そんな思い出話はともかくとして、今や注染工房は絶滅寸前。当時見学に出掛けた工房でも働くのは年配の職人さんだけで、仕事場に貼ってあった色褪せた「職人募集」の張り紙が妙に寂しげだったのを今でも覚えています。で、それをなんとか食い止めよう・盛り上げようと、学生が現存する工房の職人さんたちとコラボレーションして製品をつくることにしたのが今回の展覧会の大本。学生の発想から生まれたデザインを職人さんの精緻な技術で実現した新しい手拭いが「注染手拭プロジェクト」、そのままでは処分されてしまうB反手拭をエコで可愛い作品に生まれ変わらせる「B反手拭プロジェクト」。発想は面白いと思います。また製品化に関しては企業との共同開発ということで、かなり完成度の高いものになっているものもありました…が、ただ手拭いを使うということだけで少々無理のある商品展開もあったような…。始まったばかりのこのプロジェクト、今後の発展を楽しみにしたいところです。江戸小紋の人間国宝の小宮康孝氏もおっしゃっているように「伝統とは改良の連続である」。注染もこれからの世の中に相応しい使い方が見つかれば、これほど嬉しいことはありません。ところでこのプロジェクトの担当教員は私の恩師でもあるO先生、実は長年務めた染物工房の仕事を紹介して下さった先生でもあります。ずいぶん遅くなりましたが、会場でお会いしたO先生にはその旨の報告と感謝の気持ちを伝えることも出来ました。
投稿者 あずさ*cheera* : 2010年04月15日 15:07